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このエピソードは、アラフィフとうちゃんがサラリーマン人生の中で忘れられない出来事の1位、2位を争う。
それは僕が新入社員で、まさに会社に入り立てのタイミングで起きた。
営業のために作ったパンフレット。
そこに印刷された会社の電話番号が間違っていた。
間違ったのは印刷屋さんなんだけれども、原稿を先輩がちゃんとチェックしてなかったのがそもそもの原因だ。
しかもサイアクなのはその電話番号は実在して、間違いが発覚したのは大量のパンフレットを配布した後だったという事。
アラフィフとうちゃん、急いで当時の上司と一緒に(というかほとんど僕はカバン持ち)間違えた先に謝罪に向かう。
いやあ、朝から間違い電話がじゃんじゃん来るよ〜。ちょっと仕事にならないねぇ。
そういうご主人に上司と僕はただただ、お詫びをするばかり。
自分がやったワケじゃないけれど、僕も頭を下げる。
下げた頭は、上司が上げるまで僕も上げない。
謝っている間は「おお、これがドブ板営業というものか」と新人ながら内心、そんな事を考えていた。
いや、でもさ、ウチもこういう商売してるじゃない?だから分からないでもないんだけどね。
謝り続ける上司と僕にご主人はそう言葉を向けた。
間違えた先は、印刷の時に使う活字を製造して売っているお店だった。
上司が訳を説明すると、苦笑いを浮かべていた。
そんなやり取りの間にも、間違えた電話番号にはひっきりなしに電話がかかって来る。
問題はその間違い電話への対応だ。
間違えた先のご主人にも仕事がある。
ご主人がいちいち電話に出て、経緯を説明してアラフィフとうちゃんの会社に電話をかけ直してもらうって言う訳にもいかない。
で、間違えたとはいえ、アラフィフとうちゃんの会社にしてもパンフで当て込んでいたお客さんを逃す事も出来ない。
そこで僕に白羽の矢が立った。
その日からしばらく、僕は活字店に貼り付けになって電話番をする事になったんだ。
こういう仕事は新入社員がうってつけ。
なにしろ、他にやる事がないからね笑笑。
でも、この一大事ではとても重要な役割だった。
はい、○○活字店でございます。
僕がそう出ると、間違えた先に用がある人はすぐに要件を話し始める。
僕はすぐに電話をご主人に繋いだ。
え、ええ?
○○活字店と名乗られて、電話の向こうで戸惑いの反応を示す人は我が社のお客さん。
あ、実は私、○○株式会社の者でして・・・。
咄嗟に訳を説明して、正しい電話番号を伝えてかけ直してもらう。
こんな電話番を1日中やって、夕方には神経を使い果たしヘトヘトになってしまった。
間違えた先の営業時間が終わってから、僕は自分の会社に戻った。
おお、お疲れ様!
温かく僕を迎えてくれる上司や先輩たち。
なんだか、そこには妙な連帯感があったように思う。
前向きな仕事ではないのに、僕は達成感すら抱く事が出来た笑笑。
でも、それも最初だけ。
2日目になると、夕方、僕が会社に帰って来ても誰も声をかけてくれない。
尤も、間違ったパンフレットを配布した2日目は、前日ほど電話が掛かっては来なくなったんだけどね。
そして、電話番をして3日目の夕方。
その日も僕は1日中、活字店で電話番をしていた。
営業時間が終わると、ご主人が僕に声をかけて来た。
お兄ちゃん、もう明日は来なくていいよ。
そう声をかけられて、僕はやっとこの不毛な仕事から解放された気分になった。
さすがに3日目ともなると、間違い電話は激減した。
もし、オタクに掛かってくる電話があったらさ、かけ直すように言っとくよ。
ご主人はそう言ってくれた。
まあ、ご主人にとっても、3日間も自分の職場に見ず知らずの他人が張り付かれたらたまったものではない。
無事、無罪放免。
次の日から、僕は活字店ではなく、自分が入社した会社に朝から出社するようになった。
新入社員ながらも、世の中に出す宣材は間違えちゃいけないと肝に銘じるようになったので、これはこれで経験としては良かったのだろうと思う。
そしてあの出来事から30年近くの時を経て、昨日の事。
アラフィフとうちゃんはテレビの深夜番組を見る事はほとんどない。
昨日の夜はなぜか寝れずにいて、12時過ぎにリビングに降りてテレビのスイッチを入れた。
へぇ、この番組ってまだやってるんだ。
それはかなり昔から続いている、某人気タレントが司会をしている番組だった。
昔から毎回コアなテーマを取り上げている。
若かりし頃は毎週のように見ていたものだ。
なんだか、番組の雰囲気は昔とちっとも変わっていない。
あれ、ここって・・・。
昨日の番組は、活版印刷で使う活字がテーマ。
番組の舞台は30年前に僕が電話番をした、あのお店だった・・・。
まるで時間が止まったかのよう。
お店の雰囲気はあの時のまんまだ。
あの3日間の記憶が、脳裏に鮮明なイメージとなって蘇って来た。
間違いで3日間もするハメになった活字店での電話番。
そしていつもは見ない深夜番組をつけたら、そこに出て来たのはあのお店。
なんという偶然。
なんという巡り合わせ。
かあちゃんにこの出来事を話したい気持ちになったけれど、言った所で僕の気持ちは伝わらないだろう。
それにもうとっくに寝てるし笑笑。
そう思い、この出来事はブログにしたためるに留めておく事にした。